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2014-12-29 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「さよなら妖精」を読了。
 ー1991年4月。守屋は雨宿りをする1人の外国人の少女と出会う。マーヤという東欧から来たその少女は、複雑な背景を抱える母国において政治家になるという夢を抱いていた。日本という国についてよく知らないマーヤの為に、守屋は友人の太刀洗等と共に普段着の日本を見せようとする。マーヤと過ごす日々は、守屋達の日常に様々な謎を投げかける。やがてマーヤが帰国した後、守屋達は最大の謎を解こうとするが……。ー
 地方都市で何不自由なく暮らしているが、どこか閉塞感を感じている日本の若者そのものといった守屋。彼が出会ったのは、ユーゴスラヴィアから来たマーヤ。初対面の時、守屋はユーゴスラヴィアがどこにあるのかも知らなかった。一方のマーヤは貪欲に異国の文化や風習、政治等を吸収しようとする。それもすべて複雑な政治背景を持つ母国で政治家となり祖国の統一と平和に役立てようとする為。同世代でありながら、守屋とマーヤが背負っているものがあまりに違いすぎることが物語の核になっている。前半はマーヤに街を見せている間に遭遇したちょっとした事件を描いている。彼女の日本語能力の覚束なさや宗教の違い等から発生するような謎である。これも決して爽やかで後味の良いものではない。この辺りにこの小説が持つ重苦しさの一片がある。
 やがてマーヤが帰国するという時、守屋は思わず自分も連れて行って欲しいと懇願する。だが、それはマーヤの母国を理解して彼女を助けたいというわけではなく、受験勉強に追われた思春期の少年が持つ漠然とした逃避願望に過ぎない。マーヤに「何をするのか」と問われても答えられない。平和な国に暮らす守屋にはマーヤの壮絶な覚悟は想像すらできないのだ。日本の若者の「自分探し願望」のなんと甘いことか。太刀洗には守屋の逃避願望などお見通しで、かなり冷たく突き放されている。マーヤと太刀洗、女の子の方が成長が早いのだなと実感する。
 マーヤが帰国した後、守屋達はマーヤがユーゴスラヴィアのどの国から来たのかを推理しはじめるが、やがてそれは過酷な現実を守屋達の前にさらけ出す。私自身、ユーゴスラヴィアの分裂と内戦はニュースで見る程度の遠い国の話だった。サッカー関連で気になる程度の話だった。守屋達も半ば面白半分で推理したのだろう。だが、1つ1つ当てはまる条件を探してゆくうちにそれは絶望へと変わってゆく。そして守屋の前に血染めのバレッタが差し出された時、守屋の「少年時代」も終わりを告げたのだろう。これからは目的を決め方法を考え行動する大人になっていくのだ。この小説の読後感がそれほど悪くないのは、守屋の成長を感じられたからだろう。頭脳明晰な太刀洗も探偵役として期待できそうだ。

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2006/06/10
  • メディア: 文庫



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2012-07-16 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「ふたりの距離の概算」を読みました。
 ー春を迎え2年生となった奉太郎たち『古典部』。新入生勧誘の場で、大日向友子という新入生が入部を希望する。えるや摩耶花達ともすぐに馴染んだ大日向だったが、仮入部も終わりに近付いたある日、謎の言葉を残して入部はしないと告げた。どうやらえるとの会話が原因らしいのだが、その場にいた奉太郎は納得できない。自分の所為ではと思い詰めるえるを見た奉太郎は、入部締め切り日当日に行われるマラソン大会に参加しながら、大日向の心変わりを探る。ー
 安楽椅子探偵ならぬマラソン探偵。マラソンを走りながら、新入生がどうして入部しないと言ったのかを推理する奉太郎です。大日向さんはどうやら「友達」という言葉に強いこだわりがあるようです。それにどうも色々屈折しているよう。古典部のメンバーは皆それぞれ少々屈折していますが、大日向さんはかなり癖が強い。皆とそこそこ上手くいっていたのに何がいけなかったのか。「ふたりの距離の概算」というタイトルが上手いなと思いました。「ふたり」というのが色々で、どうやら付き合うようになったらしい里志と摩耶花だったり、「遠回りする雛」以降ちょっと関係性に変化が出て来た奉太郎とえるだったり、奉太郎と里志や大日向さんと「友達」だったり。マラソンの距離の概算ともシンクロしているようでした。省エネ主義を掲げていた奉太郎が、ここまで他人の為に動くようになったのかと吃驚。そして自分たちの手が届かない場所で起こった問題について考えるようになった奉太郎が今後どうなるのか楽しみです。

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: 文庫



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2012-06-10 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「追想五断章」を読みました。
 ー家の都合で大学を休学し、古書店を営む伯父に居候する菅生芳光は、店を訪れた北里可南子という女性から、死んだ父親が書いた5つの小説を探して欲しいと依頼される。1本10万円という報酬につられて引き受ける芳光。素人作家であった可南子の父は叶黒白という名で様々な場所に原稿を送っていたという。5本の小説に共通するのは、そのすべてが結末のない「リドルストーリー」であること。物語の最後の一行は遺品として可南子の手元に残されていた。調査を進めた芳光は、叶黒白が20年前以上に起こった「アントワープの銃声」の容疑者だったことを知る。ー
 古書店という様々な本が集まる場所に依頼された5つの小説探し。主人公である芳光は、家業が傾き父を失い、金銭的な問題で大学にも行けずというまさに袋小路状態。かといって伯父の古書店を熱心に手伝うわけでもなく毎日を過ごしています。そこに舞い込んだ依頼。依頼人である可南子は病死した父の作品とはいえ50万円と必要経費を払える余裕があり、芳光との対比がなかなかキツいものがあります。まあ。可南子は社会人なんですけど。1本探せば10万円という報酬に目が眩んで引き受けますが、自費出版されたわけでもない同人誌などに寄稿された小説を探すのはなかなか至難の業です。可南子が知っているのも1本だけ。後は故人の交友関係を辿って探して行きます。そこで出会った人達の故人に対する態度や見え隠れする「アントワープの銃声」事件の存在。芳光は次第に故人の人生そのものに興味を覚えて行きます。叶黒白の短編小説がなかなか面白い。可南子が持っている最後の一行を足して読むことになりますが、やがてこの最後の一行が持つ意味が変わってくるところがぐっと来ました。最後まで読んでから冒頭を読み直すと、「すべてはあの雪の中に眠っていて、真実は永遠に凍りついている」という一行がとても重い。秘密は秘密の方が良い。すべてが明らかになっても芳光の人生が変わるわけではありません。しかし、このことが切欠で芳光はきっと前に進むだろうと思わせる結末でした。

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/04/20
  • メディア: 文庫



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2012-05-20 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「遠まわりする雛」を読みました。
 ー「傘を持ってくれませんか?」千反田えるからの奇妙な依頼に、折木奉太郎は地元の祭事「生き雛まつり」に参加する。十二単を纏った「生き雛」が町を練り歩くというひな祭りだ。しかし、連絡の行き違いで、祭の実行が危ぶまれてしまう。えるの機転でなんとか祭は無事に開催されたが、どうしてもその「行き違い」が気になる彼女は、奉太郎と共に真相を推理する。ー
 古典部シリーズの短編集。入学直後の「秘密クラブ」事件やら、夏休みに温泉で行われた古典部合宿での「幽霊事件」やら学校生活での1年間を描いています。生徒の緊急呼び出しから事件そのものを推理する「心あたりのある者は」は面白かったです。短い校内放送からよくここまで推理したものです。初詣の神社で起きた「あきましておめでとう」は微笑ましいと思うか、えるに対してイライラするか。私は結構イライラきました。納屋に入る前に言ってあげようよ。奉太郎はこの場所に詳しくないんだからさ。バレンタインデーの攻防を描く「手作りチョコレート事件」は里志君、高校生なんだからもっと素直に生きた方が良いんじゃない?と思ってしまった。里志は摩耶花の懐の深さに甘えているところがあるのかとも思いますが、彼のやったことは正直ちょっとひどい。表題作の「遠まわりする雛」はおひな様に扮したえる達が町内を練り歩くというお祭り。こういうの見てみたいですね。真相を推理し終えた奉太郎が今までとは違います。遠い未来、奉太郎が経営戦略の才能を大いに発揮しているのか、青春の一日の甘酸っぱい思い出として里志あたりに語っているのか、楽しみでもあります。

遠まわりする雛 (角川文庫)

遠まわりする雛 (角川文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/07/24
  • メディア: 文庫



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2012-05-15 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「クドリャフカの順番」を読みました。
 ー神山高校文化祭がいよいよ始まった。しかし、折木奉太郎が所属する古典部では大問題が発生。当初30部発行予定だった文集「氷菓」が、手違いから200部も印刷されてしまったのだ。どうやってこの在庫を処分するか頭を抱え、奉太郎達は様々な宣伝活動を行う。そんな喧噪の中、学内では奇妙な盗難事件が相次いでいた。この事件を解決して古典部の知名度を上げ文集を売り切ろうとする仲間達に後押しされ、奉太郎は不思議な盗難事件を推理する羽目に……ー
 前作は文化祭に出品する為のビデオ映画にまつわるお話でしたが、いよいよ文化祭本番がやってきました。うず高く積まれた文集の在庫を減らす為にクイズ大会に出たりお料理対決に参加したり、悪戦苦闘の古典部です。しかし省エネをモットーとする奉太郎ですので、彼の担当は部室での売り子。動きません。前作までは主に奉太郎の一人称で物語が進みましたが、今作は古典部4人の視点で進みます。ちょっと忙しいですが、文化祭のお祭り気分が味わえます。奉太郎の一人称じゃ話が進まないし。そんな中で起こる不思議な窃盗事件。なんでこんなものを?というものが盗まれ、現場には『十文字』という名のメッセージカードが残されます。今回は里志が謎を解こうと頑張ります。中学校から知っていたのに、えると知り合ったことで意外な鋭さを発揮しはじめた奉太郎に以前とは違う感情を抱きつつある。その複雑さはちょっとわかる気がします。が、一番気になったのは奉太郎のお姉ちゃんの供恵さん。彼女は一体何者なんだ!そして摩耶花が所属する漫研が怖いです。また、登場人物の名前が相変わらず難しい。おかげで引っかかりました。
 「クドリャフカの順番」というタイトルが良いですね。聞き慣れない言葉でしたが、クドリャフカはスプートニク2号に乗せられた犬です。現在ではライカ犬と表記されています。

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2008/05/24
  • メディア: 文庫



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2012-05-08 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「愚者のエンドロール」を読みました。
 ー文化祭を控えた夏休みの神山高校。奉太郎達は2年F組が制作したビデオ映画の試写会に招かれる。廃村を調査した高校生達が劇場に辿り着いた時、1人の少年が腕を切り落とされて死ぬ。しかし、映画はそこで終わってしまっていた。誰が彼を殺したのかを推理してほしいというF組の「女帝」冬実。奉太郎は乗り気じゃなかったが、「わたし、気になります」というえるの好奇心には勝てず……ー
 今回は学園祭用に制作したビデオ映画が舞台。これは巧いなあと思いました。普通の高校生がそんな簡単に嵐の山荘とかに閉じ込められて死体とご対面なんて、まずあり得ないわけで。途中で終わってしまった映画の推理ならいくらでも。制作したクラスの人達がまた一癖も二癖もあって大変です。しかし、奉太郎が結論の1つに辿り着いた後、皆が異論を唱えるのが苦いなあ。エンドロールのチャットも。奉太郎が逆ギレ体質じゃなくて本当に良かった。個人的にえるのことがあまり好きになれないのも、あのラストシーンを読んでしまったからかもしれません。

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2002/07/31
  • メディア: 文庫



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2012-04-28 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「氷菓」を読みました。
 ー何事にも積極的には関わろうとしない「省エネ」をモットーとする少年、折木奉太郎。神山高校に入学した時、海外を飛び回っている姉から「古典部に入りなさい」という手紙を受け取る。古典部は今年新入部員がいなければ廃部になるという。部室を独占できるならという理由で古典部に入った奉太郎は、一身上の都合で入部したという千反田えると出会う。いつのまにか密室になった教室、毎週必ず借り出される本。好奇心の塊のようなえるによって奉太郎の灰色の高校生活に少しずつ変化が生まれる。そしてえるの頼みで、奉太郎は古典部の文集『氷菓』の謎に挑むー
 アニメ化されたのでキャラクターのでっかい帯がついていました。どうみてもカバーなのに帯らしい。
 米澤穂信さんのデビュー作です。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」を信条とする奉太郎は自ら進んで「灰色の高校生活」を送ろうとしています。しかし姉の手紙によって「古典部」に入部したことで少しずつ変化してゆく。その大きな原因が「豪農千反田家」のお嬢様、える。好奇心の塊のような彼女の「私、気になるんです!」という言葉で奉太郎は様々な謎に挑みます。高校生活の謎ですから勿論「日常の謎」ですが、だからといって平和な訳でも優しい訳でもない。古典部の文集につけられた「氷菓」というタイトルの謎に絡む話はかなり辛い。奉太郎が謎を解いた後誰かが疑問を提示し、結論が大きく変わるのが面白い。物事には色々な面があるということを思い知らされるというか。ところで、奉太郎のお姉さんが一番の謎でした。彼女は一体何者ですか?

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2001/10/31
  • メディア: 文庫



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2009-03-11 [米澤穂信]

 職場でお弁当を食べながら「いいとも」を見ていたら、ムッシュ・トルシエが出ていました。変わらないなあ、この人。今はFC琉球にいるとか。一緒にいた通訳の女性の話し方がミョーに面白かった。ムッシュ・トルシエの通訳になる人はちょっと変わった人じゃないと駄目なのか?昔、通訳をしていたダバディさんは今何をしているのだろう……。

 「絡新婦の理」をせっせと再読する傍らで、米沢穂信さんの「春期限定いちごタルト事件」を読んでみました。米沢さんは元々ライトノベルの小説家さんらしい。この連作短編も殺人などではなく、学校で盗まれたポシェットの謎とか所謂「日常の謎」です(創元推理文庫は『日常の謎』が好きだな)。主人公である高校1年生の小鳩常悟朗君は、推理が得意なのですがかつてそのことが原因で大きな失敗をし、今はひたすら「小市民」を目指しています。ここで書かれる「小市民」とは、清く慎ましく決して目立たず、推理を人前でひけらかすなどもってのほかというもの。小鳩君には一緒に「小市民」を目指そうと約束を交わした小佐内ゆきさんという相棒がいます。恋人でもなく友人にしては微妙な関係の2人は、互いのことを互恵関係と思っている。ひたすら「小市民」を目指しているのに、何故か謎が降って来るというお話ですが、実は小鳩君も小佐内さんもそれなりに腹黒い。小鳩君の視線で語られる為、読者には小佐内さんのことがさっぱりわからない。一見、いつも小鳩君の背中に隠れて消えるような声で話す大人しい女の子ですが、かなり打算的でいいように小鳩君を利用しているように見えます。小佐内さんの本性も実はまったく「小市民」ではないのですが、彼女に萌えられるかどうかで評価がまっぷたつにわかれそうです。私は苦手だ。続編はかなり評判がいいので読んでみようかなとも思いますが、彼女の描写に苛つくので駄目っぽい。汀こるものさんの「双子シリーズ」同様、キャラ萌えできればハマるタイプの小説です。


春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2004/12/18
  • メディア: 文庫



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