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2014-04-13 [篠田真由美]

 篠田真由美さんの「黒影(かげ)の館〜建築探偵桜井京介の事件簿〜」を読みました。
 ー1980年秋、養父を失った神代宗は、傷心を癒す為に旅に出る。彼を誘った実業家の門野と共に訪れた北の町で、謂れなき殺人の罪を着せられてしまう。門野は姿を消し、神代は土地を支配する「久遠家」の壮大な屋敷に軟禁される。館で出会った謎の少年・アレクセイと共に、神代は久遠家の血塗られた過去を目撃することにー
 前作で生家に戻ってしまった京介。彼を取り戻したい蒼と深春は、京介の保護者でもある神代に詰め寄り、神代が語った京介との出会いが本編である。
 京介の本名が久遠叡(くどお・あきら)であり、通称がアレクセイであることが明かされ、京介のあの美貌の謎も明かされる。北の大地に壮大な館を構え、町そのものを支配している久遠家が何者なのか、当主である久遠呉がどれだけの権力を有しているのかが謎である。だが、たとえ北の果てとはいえ1980年の日本である。国税調査も来るだろうし何より税務署と警察を舐めてはいけない。人知れず存在する町など果たしてありえるのか。このシリーズには困った時には何でもやってくれる謎の権力者なる者が度々登場するが(門野のような)、登場人物が権力を拒否する割に作者は権力者が好きなようだ。登場人物の過去といえば、蒼の過去を描いた「原罪の庭」という傑作があるが、京介の過去ならその話以上のものをと期待していた。だが、それほどでもなさそうである。せっかくの壮大な屋敷での物語なのに、事件に活かせていないのが残念。建築探偵になる前ではあるものの、アレクセイの聡明さを強調するならやはり建物に絡ませて欲しかった。もの凄い権力者なら自分の屋敷は名のある建築家か、無名だが奇抜な建築家に依頼するものだと勝手に思っていた。綾辻氏の「館シリーズ」のような建物を想像していたので、少々残念だった。

黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社ノベルス)

黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社ノベルス)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/01/09
  • メディア: 新書



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2014-03-23 [皆川博子]

 皆川博子さんの「アルモニカ・ディアボリカ」を読みました。
 ー18世紀の英国。愛弟子であるエド達を失った解剖医ダニエルは失意の日々を送っていた。一方、ダニエルの元から離れたことで職を失ったアル達は、盲目の判事ジョン・フィールディングの要請で、犯罪防止の為の新聞を作っていた。ある日、坑道で発見された身許不明の屍体の情報を求める広告依頼が舞い込む。屍体に残されていた謎の暗号。強引に調査に乗り出したアル達が知る衝撃の事実とはー
 傑作「開かせていただき光栄です」の続編。前作でダニエルの元を離れたエドとナイジェルだが、そのナイジェルが屍体となって発見されるという衝撃から物語が始まる。何故、彼が死ななければならなかったのか。アル達が必死に謎を追うその一方で、3オクターブの音域を持つグラス・ハープを作るよう依頼されたガラス職人の物語が進行する。ベンジャミン・フランクリン等実在の人物が絡む中、当時の英国の権力によって踏みにじられる弱者の物語も描かれる。特に当時の精神病院のあり方は残酷そのものだ。やがてナイジェルの悲惨な出生の秘密が明らかになり、事件の背後にエドの存在が見え隠れする。様々な物語が同時進行し、やがて一気に収束していく展開は見事の一言だ。著者の描写力は読者を物語の現場に引き込む力があるが、今回も埃まみれの英国、残酷な精神病院に自分が立っている錯覚に襲われる。ナイジェルの切ない思いに涙し、エド達が選んだ未来にわずかな光を感じた。続編の構想があるようなので、エドを掘り下げた物語を読んでみたい。このシリーズの中心は確かにエドという少年だと思う。

アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド)

アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド)

  • 作者: 皆川 博子
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/12/19
  • メディア: 単行本



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2014-03-16 [麻耶雄嵩]

 麻耶雄嵩さんの「貴族探偵対女探偵」を読みました。
 ー高徳愛香は探偵である。有名な探偵の助手であったが、師匠である彼が急逝しその跡を継いだ。まだ師匠の名声による仕事の依頼が殆どであり、自分の実績のなさに焦りを感じてもいる。そんな彼女を見かねた大学時代の友人である平野紗知の別荘に招待され、遊びに行ったところで殺人事件に出くわした。犯人はこの別荘の中にいる。捜査を開始した愛香が犯人として名指ししたのは、貴族探偵と名乗る風変わりな男だったー
 やんごとなき高貴な生まれにして、自らを「貴族探偵」と名乗る。その実、捜査はすべて使用人任せであり、自分はその「結果」だけを受け取る。前作ではヨハン・シュトラウス2世の曲目で統一されたタイトルは、今回は百人一首。すべての作品で高徳愛香と貴族探偵との闘いが描かれる。
 愛香が必ず貴族探偵を犯人と名指しする為、彼女が組み立てた推理にはかなり無理が生じている。有名な探偵の助手という肩書きが泣きそうである。しかし、貴族探偵の使用人達もまた、主である貴族探偵が犯人ではないという前提で推理を組み立てる為に、こちらも時として無理矢理感がある。
 前作の「こうもり」に匹敵するのが今作の「幣もとりあへず」。読者は地の文で登場人物の入れ替わりを推測することができるが、登場人物達がこの入れ替わりを知っているのかがわからない為に混乱する。1度読んだだけでは理解できなかった。なかなかに頭の痛む作品だった。
 「なほあまりある」では、貴族探偵の頼みの綱である使用人達が公用でふさがってしまい、誰も現場に来ることができないという状況。とうとう貴族探偵自身が推理をするのかと思ったが、さすが上に立つ人間は考えることが違う。このオチには思わずニヤリと笑ってしまった。

貴族探偵対女探偵

貴族探偵対女探偵

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 単行本



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2014-02-16 [麻耶雄嵩]

 麻耶雄嵩さんの「貴族探偵」を読みました。
 ー信州の山荘で密室状態の部屋から会社社長の死体が発見された。捜査にあたる警察の前に、突如「貴族探偵」を名乗る男が現れる。警察上部に強いコネを持つやんごとなき生まれの男は、しかし自分からは推理も捜査も一切しない。彼に従う執事やメイド達を駆使して数々の難事件を解決してゆくー
 やんごとなき高貴な生まれというその男は、自らを「貴族探偵」と名乗る。しかし、「貴族」である彼は一切の労働をしない。まるで領地から税を取るかのように使用人達が推理をした「結果」だけを自らの実績としている。彼の名前も素性も一切明かされないこの作品では、探偵は「記号」でしかない。推理小説の多くが「探偵」というキャラクターの魅力で売っているのとは正反対だ。魅力的なのは有能な執事であり料理人でありメイドである。
 ヨハン・シュトラウス2世の曲名で構成された5編のうち、最も面白かったのは「こうもり」。事件そのものは替え玉を使ってアリバイを作るというありふれたものだが、作者は「地の文で嘘を書いてはいけない」というミステリの掟を存分に活用し、読者にだけ真実を教えている。そのため、読者と作中の登場人物の間に微妙なズレが生じ、読んでいる間読者はなんともいえない違和感を感じる。「あれ?」と思った時にはもう騙されている。
 「加速度円舞曲」はタイトルそのままに一気に話が進んでゆく。そのオチがまたなんともいえない。
 「春の声」は、貴族探偵の世界に相応しい富裕層の「花婿選び」が舞台。ライヴァルを消して自分が花婿になると企んだ3人の男達が引き起こした殺人が、順番が入れ替わる事でややこしくなってしまう。3人の使用人達にそれぞれの事件を担当させ、1人ずつ発表していくうちに事件の様相ががらりと変わるのが面白かった。しかし、それほどの上流階級の名家というのならば、貴族探偵のことを何も知らないというのも不思議だ。狭い世界で家の為の付き合いも多いであろう彼等にも手が届かないほどに彼は高貴の生まれなのだろうか。

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/10/18
  • メディア: 文庫



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2014-02-11 [青崎有吾]

 青崎有吾さんの「水族館の殺人」を読みました。
 ー夏休みも中盤に突入したある日、風ヶ丘高校新聞部は地元の水族館に取材に訪れる。だが、彼等が目にしたのは、鮫の水槽に転落して食い殺される飼育員の姿だった。駆けつけた袴田刑事達の捜査によって、すべての容疑者にアリバイがあることがわかる。しかし、変わり者の天才児・裏染天馬の推理で、そのアリバイがすべて消失してしまうー
 前作「体育館の殺人」では学校という閉鎖空間での事件、天馬の周囲にいるのも同世代というまとまりだったが、今作は水族館という公共施設が舞台であり、当然ながら天馬と対峙する容疑者達は皆大人である。突如現れた高校生探偵に対する軋轢もあるし、刑事達のプライドも邪魔をする。前作は「密室」が大きなテーマだったが、今作は「アリバイ崩し」。全ての容疑者にあったアリバイが、裏染の推理でひっくり返り、全員のアリバイが消滅するところは見事だった。現場に残されていた小さな痕跡からこれでもかと論理が導き出されて、じわじわと容疑者が絞り込まれてゆく展開も面白い。アニメネタにさえ蟠りがなければ、本格ものとしてとても楽しめる。返り血の問題など、少々突っ込みどころもあるけれど、作品が発表されれば必ず読みたくなる作家だ。
 今回は裏染の妹が登場するなど(この妹も曲者だ)、シリーズ化に向けて着々と進んでいる。柚乃の部活動である卓球の練習試合の描写が延々と続くのも、今後に向けての伏線なのだろうか。ライバル校のスーパースター・忍切蝶子はまるで宝塚の男役スターのようだが、今後重要なポジションにつきそうな気がする。

水族館の殺人

水族館の殺人

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/08/10
  • メディア: 単行本



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2014-01-26 [青崎有吾]

 青崎有吾さんの「体育館の殺人」を読みました。
 ー大雨の放課後の体育館。ステージの上で放送部長が刺殺された。どこかに人の目があったある種の密室状態での犯行に、唯一その場にいた女子卓球部部長に嫌疑がかかる。死体発見現場に居合わせた卓球部員の柚乃は、部長の嫌疑を晴らす為に学内随一の天才といわれる裏染天馬に真相の解明を依頼する。だが、彼は校内の使われていない部室で寝起きしているアニメオタクという変わり者だったー
 第22回鮎川哲也賞受賞作。作者が現役大学生ということでも話題になった作品。携帯電話やインターネットの発達で、本格ミステリの舞台となる「クローズドサークル」を作り難い現代において、舞台設定を現代のまま、見事な本格ミステリを造り上げている。
 放課後の学校、体育館という舞台は部活動に励む生徒や帰宅する生徒などで常にどこかに人の目がある。そのステージ上で一瞬の隙をついたかのように起きた殺人事件。唯一現場にいた卓球部部長に容疑がかかるが、裏染は舞台袖のトイレに残された傘1本から論理を導いて彼女の容疑を晴らしてしまう。様々な場で指摘されているように、メイントリック解明の論理には甘さがあるし、こんなにうまくいくものなのかとも思う。また最近の学校は不審者対策に特に力を入れている筈で、学校にバレずに校内で暮らしたり夜に学校に忍び込んだりするのはまず不可能なのではないか等、色々気になることがあるけれど、それ以上に小説としてとても面白かった。次作以降が非常に楽しみな作家だ。

体育館の殺人

体育館の殺人

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/10/11
  • メディア: 単行本



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2014-01-13 [京極夏彦]

 京極夏彦さんの「書楼弔堂ー破曉」を読みました。
 ー明治初期、病を理由にだらだらと高等遊民ばりの生活を続ける高遠は、奇妙な古本屋を見つける。櫓のような建物で、入口には「弔」の一文字。店の主はかつて僧であったという男。彼は人が出会う本はたった1冊であり、本もまたその人に出会わなければ死んでいると語る。自分はその本達の墓守であると。そしてこの弔堂には、人生に迷う者達がたった1冊の本を求めてやって来るのだー
 京極さんの新シリーズは明治維新を経て日本が急激に変わって行く時代の話。「書楼弔堂」という奇妙な古本屋にやって来るのは、実在の人物達だ。墓守との対話によって1冊と巡り会い、新たな人生を切り開いて行く。中でも「贖罪」は良かった。生きながら死んでいる幕末のある人物とジョン万次郎が店にやって来る。幕末の志士達のやるせなさ、彼の慟哭がひしひしと伝わって来た。生き残った彼等のうち、がらりと変わってゆく世の中について行けたのはどれくらいいたのだろう。
 「未完」ではある神主の蔵書を弔堂が買い付けに行くという、今までとは違って弔堂の外で物語が進行する。この神主は恐らく京極堂こと中禅寺秋彦の祖父にあたる人なのだろう。本書を読み進めて行くと、中禅寺秋彦という人物は祖父よりも弔堂の主の影響を多大に受けているように感じられる。
 中禅寺家に所縁のある人物を出すということは、新作が出なくなって久しい「京極堂シリーズ」の版元がこちらに移るのかとついつい邪推してしまう。だが、この弔堂シリーズも続刊があるようなので、どうなるのか気になるところだ。

書楼弔堂 破暁

書楼弔堂 破暁

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: 単行本



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2014-01-01 [長野まゆみ]

 長野まゆみさんの「ささみみささめ」を読みました。
 ー「ささみみささめ」は、親族だけに通用する隠語でこれから内緒話をするという合図だ。耳元で囁かれて了承したら同じ言葉を囁き返す。祖父が臨終間際に父に残した言葉は「毒を飲んでやった」というもの。最早食事はおろか水も飲めない祖父に何があったのか。祖父の葬儀で明らかになったこととは……ー
 日常的に、道を歩いていたときにすれ違い様に、ふと耳に入って来るような言葉。その言葉をモチーフに綴ったショートショート集。25の物語が収録されています。「45°」も不思議なタイトルと味わいの短編集でしたが、「ささみみささめ」はまた一風変わった雰囲気の作品です。帯にあるようにまさに「白昼夢」という言葉がふさわしいでしょう。ミステリ風なもの、ちょっと背筋が凍りそうになるもの、ほのぼのとした気持ちになれるものとバラエティに富んでいます。共通しているのは登場する女性達の意地悪さと怖さ。長野さんの女性性に対する嫌悪感のようなものは健在です。同性愛的なお話も収録されているので、苦手な方はご注意を。ふだんと違う道を歩いていて不思議な体験をする「ウチに来る?」がお気にいりです。私は長野さんの作品では初期のものの方が好きなのですが、雰囲気がちょっと「夏期休暇」などに似ているかな?あの頃のような独特な世界を生きる少年達の物語が読みたいのですが、もう叶わないのでしょうか。

ささみみささめ (単行本)

ささみみささめ (単行本)

  • 作者: 長野 まゆみ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 単行本



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2013-12-23 [有栖川有栖]

 有栖川有栖さんの「菩提樹荘の殺人」を読みました。
 ー湖畔に建つ瀟酒な洋館。「菩提樹荘」と呼ばれるその館の庭で下着1枚の姿で死んでいたのは、アンチエイジング界の寵児ともてはやされた男だった。捜査に参加した火村とアリスは、男の虚飾に満ちた人生を辿ってゆくー
 作家シリーズの短編集。テーマは「若さ」。表題作の「菩提樹荘の殺人」は、若々しい容姿を武器にアンチエイジングの世界でのし上がった男の話です。そこにアリスの若かりし頃の恋の思い出も加わっています。本格ミステリというよりは、アリスと火村というキャラクターの活躍を楽しむ小説です。本格ものは学生アリスと江神先輩に任せているかのようです。
 逃亡を続ける連続殺傷犯である美少年のお話である「アポロンのナイフ」は、いかにも彼が犯行に及んだかのような事件が発生し、アリスが出会った美少年の存在、少年犯罪の扱いに対するマスコミの態度や市民の不安など盛りだくさんですが、短編故に駆け足感が強い。結局「アポロン」とは何だったのか。
 お笑い芸人コンビの1人が殺された「雛人形を笑え」は、殺人現場の凄惨さがあまり感じられません。有栖川さんの特色ともいえますが、想像してみるとかなりむごたらしい。が、真相を知ると逆に悲しくなります。この作品の舞台は関西なので、お笑いに対する熱も関東生まれの私には想像もつかないものがあるのだろうなと思います。
 「探偵、青の時代」は火村が大学生の頃の話。さぞかし浮いた学生だったであろうことが容易く想像できます。些細なことから事件の真相を見抜く力はこの頃から発揮されていたようです。火村の謎めいた過去の事件に直接繋がっているわけではありませんが、ファンにとっては嬉しい物語ではないでしょうか。作者はどうやら火村の過去についてきちんと設定しているわけではなさそうなので、真相が明らかになる日が来るのかどうかが、一番のミステリなのかもしれません。

菩提樹荘の殺人

菩提樹荘の殺人

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/08/26
  • メディア: 単行本



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2013-12-15 [倉知 淳]

 倉知 淳さんの「シュークリームパニック〜Wクリーム〜」を読みました。
 ーメタボな中年男性4人が参加した「体質改善セミナー」。怪しげで貧相なインストラクターの男の指導方法は「絶食」。耐え難い空腹感に襲われ、それが怒りに変わって行く最中、冷蔵庫から「限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム」が盗まれる。参加者の1人である四谷は、綿密な推理を組み立てて犯人を指摘するが……ー
 前作「シュークリームパニック〜生チョコレート〜」と対になった1冊。ようやくタイトルであるシュークリームが登場しますが、物語に出て来るのはメタボに悩む中年男が4人と、甲高い声で話す貧相な体格のインストラクターの中年男。表紙に描かれている女の子はどこよ?と突っ込みたくなります。インストラクターが冷蔵庫に隠しておいたシュークリームは誰がどうやって盗んだのか。推理はなかなか面白かったし、シュークリームが食べたくなるサブリミナル効果もついています。しかし、オチは本当に情けない。
 「通い猫ぐるぐる」は、著者の猫好きがよくわかる短編。猫に暗号を仕込むというちょっと無謀なお話です。ほのぼのとしたカップルの会話で構成されたこのお話は、暗号云々よりも猫がいかに可愛いかがよく理解できます。
 「名探偵南郷九条の失策〜怪盗ジャスティスからの予告状」は、いかにも倉知さんらしいミステリです。出来映えでいえば、2冊の中でも一番ではないでしょうか。ライトノベル作家の作品の説明や、美少女5人組のイラストが描かれた色紙の描写にニヤリとします。「ななみ♡マジカル」略して「ななマジ」の音が、どことなく「まどか☆マギカ」略して「まどマギ」を彷彿とさせたり、ビジュアルが大人気の5人組放課後ヒロインなアイドルを連想させたり、かなり趣味な部分が入っていますが。その辺りに気を取られていると大事な伏線を全部見逃してしまいます。最後に「ああ、やられた」と素直に思ってしまいました。最後、やけくそみたいな文章が書かれていますが、そんなにアンフェアじゃないと思います。気付かなかった方が負けです。

シュークリーム・パニック ―Wクリーム― (講談社ノベルス)

シュークリーム・パニック ―Wクリーム― (講談社ノベルス)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/11/07
  • メディア: 新書



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