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2014-08-31 [初野 晴]

 初野 晴さんの「水の時計」を読了。
 ー医学的に脳死と診断された少女・葉月。彼女は月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を発することができた。生きることも死ぬこともできない残酷な「時計」の中に閉じ込められた葉月は、自らの臓器を他人に分け与えることによって、「時計」を止める事を望む。その臓器を運ぶ役目を負わされたのは、暴走族に所属していた少年・昴だった。ー
 物語のモチーフはオスカー・ワイルドの「幸福の王子」。宝石を分け与える王子の像が葉月で、ツバメが昴。
 臓器移植を「幸福の王子」になぞらえたのが巧かった。何故葉月が月夜にだけ言葉を発することができるのかは謎だが、彼女は自分の臓器を与える相手を自分と昴によって選びたいと望む。昴には心を病んだ兄がいて、暴走族仲間との軋轢もある。だが、昴は謝礼金目的に臓器の運び屋を引き受け、そして様々な人と出会う。
 母親による代理ミュンヒハウゼン症候群によって目を奪われた幼女、腎移植を求めてブローカーに大金を支払い詐欺にあった女性、「心」の在処を心臓に求めて、敢えて「移植を受けない自由」を選んだ人など、「生きる」ということに直面した人達の話が重い。この物語の主役は紛れもなく彼等なのだろう。
 最終章でようやく葉月自身のことが語られる。それまで断片的にイメージのように現れていた少女が経験したことはあまりにも惨い。「幸福の王子」はサファイアの目を失い、ツバメの死を見る事はなかったが、昴は葉月の時計が止まるまできちんと見届けた。そして彼はその先を歩くことを決めたようである。
 なんとも不思議な雰囲気の小説だったが、もう少し葉月と昴、昴と兄の関係を掘り下げて欲しかったなとも思う。

水の時計 (角川文庫)

水の時計 (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/08/25
  • メディア: 文庫



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