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2014-07-27 [山本 弘]

 山本 弘さんの「僕の光輝く世界」を読了。
 ーいじめにあっていた光輝は、橋から突き落とされて後頭部を強打してしまう。それが原因で光輝は失明。だが、彼の脳は「アントン症候群」という症状を発症する。何も見えていないのに視覚があるように錯覚を起こし、脳内に様々なイメージを勝手に創り出すという症状に戸惑ったものの、光輝はその能力で様々な困難を乗り越えようとする。ー
 「アントン症候群」。この物語の鍵となるとても珍しい症例。人間が実際に目で見ている情報は、実はとても少ないらしい。それがフルカラーとなりきちんとした形になるのは、脳がこれまでの経験から情報を結びつけて判断しているとか。視力を失った光輝は目から情報が入って来ない分、脳が自由気ままに映像を創り出してしまう。アニメオタクだった光輝の脳が創り出す映像は美少女あり、宇宙ありと実にバラエティに富んでいる。
 物語の前半は障害を負った光輝が、かつて自分を虐めていた同級生の妹・夕との出会いを通じてほのかな恋に落ちるボーイ・ミーツ・ガールだが、光輝自身も光輝の周囲の人達も皆なかなかに自分勝手で、光輝の世界は決して優しくない。障害を負った人に対する健常者の優越感や、ネットの情報を鵜呑みにしてしまった故に起こった事件など重苦しい。だが、アントン症候群のもう一つの症状である「多幸感」の所為で光輝がとてもポジティブなために救われる。将来の生活に不安を覚えた光輝が、アントン症候群を逆手に取って夕と組んでベストセラー作家を目指そうとする後半からミステリ色が強くなる。簡単に大もうけできると思っているところはいただけないが、横溝正史調の作品から謎を解くのは面白い。確かに自分がそこにいるようなイメージを勝手に創り出し、その先の物語まで創りあげてしまうこの症状は作家に向いているのかもしれない。夕もどうやら素直になりそうだし、この先の2人に微笑ましく優しい未来が訪れることを願う。

僕の光輝く世界

僕の光輝く世界

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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