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2014-12-31 [北山猛邦]

 北山猛邦さんの「私たちが星座を盗んだ理由」を読了。
 講談社文庫版の表紙片山若子のイラストや、収録された5つの物語のタイトルから、とても優しいメルヘンチックな作品だと思わせるが、どれもラストはとても残酷な物語たちである。

「恋煩い」は、同じ高校の先輩に片思いするアキの物語。クラスや友人から何気なく聞いた恋が叶うおまじないをアキは実践していくが、恋が叶うどころか何故か危ない目に遭うことが多くなる。「恋は盲目」とはよく言ったものだと思うが、この年頃の少女達の思い込みの強さに背筋が寒くなる。さらに最後の1行の破壊力は凄まじいものがある。この話が冒頭を飾っていることで、読者はかなり覚悟を決めて本書を読み進めることとなる。

「妖精の学校」は、記憶を失った少年が目覚めるところから始まる。ヒバリという名前だと教えられた彼がいるのは、人間が少しずつ妖精になっていく学校だという。絶海の孤島にあるその学校で暮らすうちに、ヒバリは少しずつ島の「闇」に近付いてゆく。空からまき散らされる「その場所は何処にも属さない!」というビラが、物語の鍵を握っている。この場所を守らなければならない妖精とは何者なのか。答えは最後の1行の数字にある。この意味がわかれば、彼等が何の為に集められたのかがわかる。そして彼等が何処から来てどこに行くのかを考えるとゾッとする。本書の中でも秀逸な作品だと思う。

「嘘つき紳士」は、借金に追われた男が携帯電話を拾ったことから始まる。持ち主が同世代の男と知り、頻繁に「キョーコ」という名の人物から入るメールを読んだ男は、その「キョーコ」から金を引き出そうと考える。同じ頃、携帯電話の真の持ち主である白井の事故死を知り、男は「キョーコ」が白井の死を知るまでの期間限定で金を騙しとろうと考える。自分を白井と信じ込んで金を振り込んでくる「キョーコ」に対し、複雑な感情を持つ男。だが、最後に男が目撃したもので世界が反転する。「キョーコ」とメールで会話する間に、人生の誇りを取り戻そうとまで誓った男の哀れさが何ともいえない。

「終の童話」は、昔話風に書かれた作品。怪物に石にされてしまった幼馴染みを愛し続ける少年の物語である。石にされてから11年後、人間に戻すことができるという人物が現れ、少年は少女を取り戻せると喜ぶが、石化された人々が破壊されるという事件が発生する。村人達が生け贄のように犯人と決めつけたのは、かつて怪物を退治した英雄だった。これは実に残酷な物語で、大切な人が石にされる絶望、戻すことが出来ると知ってから石が壊される絶望、そして少年が味わう最大の絶望。おとぎ話であれば、魔法の薬で元通り!になるはずなのに。この話の結末は読者に委ねられているが、どちらを選んでも悲しいだけである。

表題作の「私たちが星座を盗んだ理由」は、病気で入院している姫子の姉の為に幼馴染みの男の子(夕兄ちゃん)が七夕の夜に星座を一つ消すというお話。やがて姉は亡くなり、大人になった姫子は彼に星座を消す方法を尋ねる。この星座を消すという方法がなかなかに面白い。この方法を知っていた夕兄ちゃんには恐れ入りますとしか言えない。だが、この物語の本質は死を間近にした姉、姉を見舞う夕兄ちゃん、彼に憧れる姫子の関係にある。小さなすれ違いがタイトルである「私たちが星座を盗んだ理由」にもあたり、見事だなと思う。

私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)

私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/15
  • メディア: 文庫



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