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2015-02-22 [高田 大介]

 高田 大介さんの「図書館の魔女」を読了。
 ー山深い鍛冶の里に暮らす少年・キリヒトは、王宮の命により、史上最古と謂われる図書館「高い塔」の魔女ことマツリカに仕えることとなる。膨大な言葉を理解し操るマツリカだったが、彼女自身は声を持たない。一方、マツリカの声となることとなったキリヒトは文字を知らず、マツリカはキリヒトとの間にだけ通じる会話の手段を編み出そうと考える。2人は次第に距離を近付けてゆくが、彼女達の国「一ノ谷」は、周辺諸国との緊張を高めていく。高度な政治的介入を行う「図書館」に対する牽制が強まり、マツリカ自身にも刺客が向けられる。果たしてマツリカは戦争を止めることができるのかー
 第45回メフィスト賞受賞作だが、分類はファンタジー。デビュー作にして上巻600頁超、下巻800頁越の超大作である。
 「一ノ谷」に聳える高い塔と呼ばれる最古の図書館には、あらゆる文献が収められている。その管理を行う「図書館の魔女」はただの司書ではない。先代のタイキが144通の書簡で諸国を調停し戦争を止めたように、政治的介入を行う特別な存在である。新たに司書の任に就いたマツリカはタイキの孫娘であるが、声を持たない為に会話は手話で行う。彼女に仕えるよう命じられたキリヒトは文字を知らず、とても司書の仕事はできない。だが、マツリカは彼がとても感覚が鋭いことに気付いて、2人の間だけで通じる「指話」を編み出す。キリヒトの耳の良さで思わぬ地下水道を発見したり、廃工場から不思議な設備を見つけたりと、マツリカとキリヒトの冒険は微笑ましい。上巻は言語学の蘊蓄や「一ノ谷」と隣接する大国「ニザマ」「アルデシュ」、辺境伯が治める諸州の関係性や政治的駆け引きが詳細に描かれるので、少々退屈な感じも否めない。しかし、多くのファンタジーがそうであるように、この世界情勢を頭に入れておかないと後々苦労してしまう。それでも「一ノ谷」の市井描写がまた楽しく、特に食べ物の描写が素晴らしい。
 上巻の最後でキリヒトの正体が明らかになり、マツリカはこの少年が背負わされた重い宿命に涙する。これほどに膨大な言葉の知識があるのに、マツリカは自分に芽生えた感情を言い表す言葉を知らないのである。キリヒトもまた己の心情を理解しておらず、2人の初々しい感情が澄んだ地下水のようでとても美しい。

 これより先、下巻の内容に触れるのでご注意を。

 
図書館の魔女(上)

図書館の魔女(上)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



図書館の魔女(下)

図書館の魔女(下)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


 下巻に入るといよいよ周辺国との緊張感が高まり、マツリカ達も行動に出始める。そしてマツリカに向けられた刺客。言葉を生み出す要である左手を暗示によって封じられたマツリカだが、今の彼女にはキリヒトという特別な存在があり、彼女は決して下を向かない。誰もが納得して自分が振り上げた刀を下ろす為に、マツリカ達は三国首脳会談へと向かう。首脳会談からマツリカを狙う刺客「双子座」との決戦、本の厚さは全く気にならない程に面白かった。
 マツリカ達が行動に出たことで確かに戦争は回避されたが、彼女達がしたことは切欠を作ったに過ぎない。「ニザマ」の天帝と組んだということは、今までこの国を動かしてきた宦官達を敵に回すことであり、「アルデシュ」の農地改革も成功するとは限らない。それ故に、マツリカはキリヒトを送り出す。2人が再会を誓う場面はとても切なくて美しい。
 どこか人の情に欠けるとまで謂われたマツリカがキリヒトと出会ったことにより、自分を狙った刺客にも「言葉」があったはずだとまで考えるようになる。「言葉」こそが後々まで残り、人を導くのだという彼女の思いの強さにとても惹かれた。いつかキリヒトが自分の名前で図書館に戻って来るのをマツリカと共に待ちたいと思う。
 
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