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2015-02-11 [長沢 樹]

 長沢 樹さんの「消失グラデーション」読了。
 ー私立藤野学院高校バスケ部員椎名康は、校舎の屋上から転落した少女を発見する。助けようとした康は、何者かに襲われて意識を失ってしまう。康が目を覚ましたとき、少女は跡形もなく消えていた。一方、学院に侵入者という事件に、康のクラスメイトである樋口真由は独自に防犯カメラを仕掛けていたー
 第31回横溝正史ミステリ大賞受賞作。校舎から転落した被害者が消失してしまうという不可解な事件。強豪と呼ばれるバスケット部内のギクシャクとした空気。孤立してゆくバスケ部エースの網川緑、女子生徒と乱れた関係を結ぶ康、康に対しては何故か意地悪な態度になる真由など、高校生特有の痛々しい姿を描いている。今時の高校生はこれほどに揺れ動いているのかと、自分の高校時代と比べて溜め息をつきたくなるほどだ。学校の制服を盗む「ヒカル君」と呼ばれる侵入者の存在もあり、転落と消失事件の謎は深まっていくが、この作品の一番の「肝」はそこではない。

以下、ネタバレの為、未読の方はご遠慮ください。


消失グラデーション

消失グラデーション

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/09/27
  • メディア: 単行本


 この作品の一番の見せ所は、康と真由の性別誤認トリックにある。冒頭、康は女子生徒と性行為に及ぼうとし、一人称も「僕」である。しかも「男子バスケット部」の部員だ。だが、怪我を理由に練習には殆ど参加せず、マネージャーとしての仕事もさぼっている。ここで感じる違和感が鍵だ。男子バスケ部の鳥越が康にアタックしているのを読めば、鳥越が同性愛者なのかと、ここでも読者は騙されてしまう。また、学校に侵入しようとしているヒカル君こと久住祐人が目撃している冒頭の「修羅場」は、男子生徒(真由)と女子生徒(康)がおり、真由は大抵康と一緒にいることから「男女」の描写が多く、真由の性別を隠すのにちょうど良い。しかも真由は性同一性障害なので余計に誤認するようになっている。
 メインの網川緑消失事件についても、モデルを務めるほどの美少女である緑が実は仮性半陰陽で、男性化が進んでいるという衝撃の真相だが、この真相を突き止めたのが自身の性別で悩む真由であるというのが巧いなと思う。緑の消失については自力で立ち去ったのだろうと予想はつくが、そこに制服の取り替えというトリックがあることまでは予想できなかった。
 物語の終わり、康は「女性」として歩き出すことを決める。真由も少しずつではあるが周囲に受け入れられはじめ、内容は重かったが読後感はとても爽やかだった。

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