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2015-08-28 [乾石智子]

 乾石智子さんの「夜の写本師」を読了。
 ー右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。カリュドゥは3つの品物を持って生まれてきた。育ての親であるエイリャを、大魔導師アンジストによって目の前で惨殺された彼は復讐を誓う。彼の為に存在するという「月の書」を読み解く為に、魔法ならざる魔法を操る「写本師」となるべく修行を重ねる。ー
 とても重厚なファンタジーである。不思議な生まれ方をしたカリュドゥは、復讐という暗黒に染まって髪も瞳も黒くなる。アンジストは女性だけが持つという魔力を奪い続け、彼が治める国では女性は物のように扱われる。
 カリュドゥの修行が進むうちに、彼が持って生まれた3つの品物の由来が明らかになってゆく。はるか昔、アムサイストという名だったアンジストによって殺されたシルヴァイン。彼女がかけた呪いによって生まれ変わり、その度にアンジストによって殺される魔女。時間を遡り、彼女達の生き様と最後を追体験するうちに、何故カリュドゥは男性として生まれたのかという疑問にあたる。
 物語に出てくる魔法は、ファンタジーによくあるようなキラキラしたものではない。人を呪えばその闇が跳ね返り、数多の命を犠牲にして成り立つ呪法も存在する。国によって魔法が違い、それぞれが体系だって語られるので混同することなく読み進められた。設定も細かくて異世界にすんなりと入っていける。カリュドゥが修行に行くパドゥキア国のガエルク師匠の家が、天窓から水色の光が差し込み部屋が水底のようだという描写が特に美しい。
 最強の魔導師に立ち向かうカリュドゥが「写本師」というのも面白い。文字を駆使してアンジストが女性達から奪った魔力を剥がしとろうとする。

 ここから先は、物語のクライマックスに触れています。

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2015-02-22 [高田 大介]

 高田 大介さんの「図書館の魔女」を読了。
 ー山深い鍛冶の里に暮らす少年・キリヒトは、王宮の命により、史上最古と謂われる図書館「高い塔」の魔女ことマツリカに仕えることとなる。膨大な言葉を理解し操るマツリカだったが、彼女自身は声を持たない。一方、マツリカの声となることとなったキリヒトは文字を知らず、マツリカはキリヒトとの間にだけ通じる会話の手段を編み出そうと考える。2人は次第に距離を近付けてゆくが、彼女達の国「一ノ谷」は、周辺諸国との緊張を高めていく。高度な政治的介入を行う「図書館」に対する牽制が強まり、マツリカ自身にも刺客が向けられる。果たしてマツリカは戦争を止めることができるのかー
 第45回メフィスト賞受賞作だが、分類はファンタジー。デビュー作にして上巻600頁超、下巻800頁越の超大作である。
 「一ノ谷」に聳える高い塔と呼ばれる最古の図書館には、あらゆる文献が収められている。その管理を行う「図書館の魔女」はただの司書ではない。先代のタイキが144通の書簡で諸国を調停し戦争を止めたように、政治的介入を行う特別な存在である。新たに司書の任に就いたマツリカはタイキの孫娘であるが、声を持たない為に会話は手話で行う。彼女に仕えるよう命じられたキリヒトは文字を知らず、とても司書の仕事はできない。だが、マツリカは彼がとても感覚が鋭いことに気付いて、2人の間だけで通じる「指話」を編み出す。キリヒトの耳の良さで思わぬ地下水道を発見したり、廃工場から不思議な設備を見つけたりと、マツリカとキリヒトの冒険は微笑ましい。上巻は言語学の蘊蓄や「一ノ谷」と隣接する大国「ニザマ」「アルデシュ」、辺境伯が治める諸州の関係性や政治的駆け引きが詳細に描かれるので、少々退屈な感じも否めない。しかし、多くのファンタジーがそうであるように、この世界情勢を頭に入れておかないと後々苦労してしまう。それでも「一ノ谷」の市井描写がまた楽しく、特に食べ物の描写が素晴らしい。
 上巻の最後でキリヒトの正体が明らかになり、マツリカはこの少年が背負わされた重い宿命に涙する。これほどに膨大な言葉の知識があるのに、マツリカは自分に芽生えた感情を言い表す言葉を知らないのである。キリヒトもまた己の心情を理解しておらず、2人の初々しい感情が澄んだ地下水のようでとても美しい。

 これより先、下巻の内容に触れるのでご注意を。

 
図書館の魔女(上)

図書館の魔女(上)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



図書館の魔女(下)

図書館の魔女(下)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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2015-02-11 [長沢 樹]

 長沢 樹さんの「消失グラデーション」読了。
 ー私立藤野学院高校バスケ部員椎名康は、校舎の屋上から転落した少女を発見する。助けようとした康は、何者かに襲われて意識を失ってしまう。康が目を覚ましたとき、少女は跡形もなく消えていた。一方、学院に侵入者という事件に、康のクラスメイトである樋口真由は独自に防犯カメラを仕掛けていたー
 第31回横溝正史ミステリ大賞受賞作。校舎から転落した被害者が消失してしまうという不可解な事件。強豪と呼ばれるバスケット部内のギクシャクとした空気。孤立してゆくバスケ部エースの網川緑、女子生徒と乱れた関係を結ぶ康、康に対しては何故か意地悪な態度になる真由など、高校生特有の痛々しい姿を描いている。今時の高校生はこれほどに揺れ動いているのかと、自分の高校時代と比べて溜め息をつきたくなるほどだ。学校の制服を盗む「ヒカル君」と呼ばれる侵入者の存在もあり、転落と消失事件の謎は深まっていくが、この作品の一番の「肝」はそこではない。

以下、ネタバレの為、未読の方はご遠慮ください。


消失グラデーション

消失グラデーション

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/09/27
  • メディア: 単行本


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2014-12-31 [北山猛邦]

 北山猛邦さんの「私たちが星座を盗んだ理由」を読了。
 講談社文庫版の表紙片山若子のイラストや、収録された5つの物語のタイトルから、とても優しいメルヘンチックな作品だと思わせるが、どれもラストはとても残酷な物語たちである。

「恋煩い」は、同じ高校の先輩に片思いするアキの物語。クラスや友人から何気なく聞いた恋が叶うおまじないをアキは実践していくが、恋が叶うどころか何故か危ない目に遭うことが多くなる。「恋は盲目」とはよく言ったものだと思うが、この年頃の少女達の思い込みの強さに背筋が寒くなる。さらに最後の1行の破壊力は凄まじいものがある。この話が冒頭を飾っていることで、読者はかなり覚悟を決めて本書を読み進めることとなる。

「妖精の学校」は、記憶を失った少年が目覚めるところから始まる。ヒバリという名前だと教えられた彼がいるのは、人間が少しずつ妖精になっていく学校だという。絶海の孤島にあるその学校で暮らすうちに、ヒバリは少しずつ島の「闇」に近付いてゆく。空からまき散らされる「その場所は何処にも属さない!」というビラが、物語の鍵を握っている。この場所を守らなければならない妖精とは何者なのか。答えは最後の1行の数字にある。この意味がわかれば、彼等が何の為に集められたのかがわかる。そして彼等が何処から来てどこに行くのかを考えるとゾッとする。本書の中でも秀逸な作品だと思う。

「嘘つき紳士」は、借金に追われた男が携帯電話を拾ったことから始まる。持ち主が同世代の男と知り、頻繁に「キョーコ」という名の人物から入るメールを読んだ男は、その「キョーコ」から金を引き出そうと考える。同じ頃、携帯電話の真の持ち主である白井の事故死を知り、男は「キョーコ」が白井の死を知るまでの期間限定で金を騙しとろうと考える。自分を白井と信じ込んで金を振り込んでくる「キョーコ」に対し、複雑な感情を持つ男。だが、最後に男が目撃したもので世界が反転する。「キョーコ」とメールで会話する間に、人生の誇りを取り戻そうとまで誓った男の哀れさが何ともいえない。

「終の童話」は、昔話風に書かれた作品。怪物に石にされてしまった幼馴染みを愛し続ける少年の物語である。石にされてから11年後、人間に戻すことができるという人物が現れ、少年は少女を取り戻せると喜ぶが、石化された人々が破壊されるという事件が発生する。村人達が生け贄のように犯人と決めつけたのは、かつて怪物を退治した英雄だった。これは実に残酷な物語で、大切な人が石にされる絶望、戻すことが出来ると知ってから石が壊される絶望、そして少年が味わう最大の絶望。おとぎ話であれば、魔法の薬で元通り!になるはずなのに。この話の結末は読者に委ねられているが、どちらを選んでも悲しいだけである。

表題作の「私たちが星座を盗んだ理由」は、病気で入院している姫子の姉の為に幼馴染みの男の子(夕兄ちゃん)が七夕の夜に星座を一つ消すというお話。やがて姉は亡くなり、大人になった姫子は彼に星座を消す方法を尋ねる。この星座を消すという方法がなかなかに面白い。この方法を知っていた夕兄ちゃんには恐れ入りますとしか言えない。だが、この物語の本質は死を間近にした姉、姉を見舞う夕兄ちゃん、彼に憧れる姫子の関係にある。小さなすれ違いがタイトルである「私たちが星座を盗んだ理由」にもあたり、見事だなと思う。

私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)

私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/15
  • メディア: 文庫



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2014-12-29 [米澤穂信]

 米澤穂信さんの「さよなら妖精」を読了。
 ー1991年4月。守屋は雨宿りをする1人の外国人の少女と出会う。マーヤという東欧から来たその少女は、複雑な背景を抱える母国において政治家になるという夢を抱いていた。日本という国についてよく知らないマーヤの為に、守屋は友人の太刀洗等と共に普段着の日本を見せようとする。マーヤと過ごす日々は、守屋達の日常に様々な謎を投げかける。やがてマーヤが帰国した後、守屋達は最大の謎を解こうとするが……。ー
 地方都市で何不自由なく暮らしているが、どこか閉塞感を感じている日本の若者そのものといった守屋。彼が出会ったのは、ユーゴスラヴィアから来たマーヤ。初対面の時、守屋はユーゴスラヴィアがどこにあるのかも知らなかった。一方のマーヤは貪欲に異国の文化や風習、政治等を吸収しようとする。それもすべて複雑な政治背景を持つ母国で政治家となり祖国の統一と平和に役立てようとする為。同世代でありながら、守屋とマーヤが背負っているものがあまりに違いすぎることが物語の核になっている。前半はマーヤに街を見せている間に遭遇したちょっとした事件を描いている。彼女の日本語能力の覚束なさや宗教の違い等から発生するような謎である。これも決して爽やかで後味の良いものではない。この辺りにこの小説が持つ重苦しさの一片がある。
 やがてマーヤが帰国するという時、守屋は思わず自分も連れて行って欲しいと懇願する。だが、それはマーヤの母国を理解して彼女を助けたいというわけではなく、受験勉強に追われた思春期の少年が持つ漠然とした逃避願望に過ぎない。マーヤに「何をするのか」と問われても答えられない。平和な国に暮らす守屋にはマーヤの壮絶な覚悟は想像すらできないのだ。日本の若者の「自分探し願望」のなんと甘いことか。太刀洗には守屋の逃避願望などお見通しで、かなり冷たく突き放されている。マーヤと太刀洗、女の子の方が成長が早いのだなと実感する。
 マーヤが帰国した後、守屋達はマーヤがユーゴスラヴィアのどの国から来たのかを推理しはじめるが、やがてそれは過酷な現実を守屋達の前にさらけ出す。私自身、ユーゴスラヴィアの分裂と内戦はニュースで見る程度の遠い国の話だった。サッカー関連で気になる程度の話だった。守屋達も半ば面白半分で推理したのだろう。だが、1つ1つ当てはまる条件を探してゆくうちにそれは絶望へと変わってゆく。そして守屋の前に血染めのバレッタが差し出された時、守屋の「少年時代」も終わりを告げたのだろう。これからは目的を決め方法を考え行動する大人になっていくのだ。この小説の読後感がそれほど悪くないのは、守屋の成長を感じられたからだろう。頭脳明晰な太刀洗も探偵役として期待できそうだ。

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2006/06/10
  • メディア: 文庫



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2014-11-23 [初野 晴]

 初野 晴さんの「千年ジュリエット」を読了。
 ーコンクールを終えたチカとハルタ達吹奏楽部の次の舞台は文化祭。だが、チカとハルタが憧れる草壁先生に女性の来客が。草壁の恩師の孫娘だという彼女が持って来た謎とは……。ー
 文化祭という一大イベントを控えてざわつく学校という、独特の雰囲気がなつかしく思える。
 「エデンの谷」は、草壁の恩師の孫娘である真琴が持ち込んだ謎。祖父が遺した高価なピアノの鍵を探すこと。類いまれなる音楽センスを持ちながらピアニストにならなかった真琴と、同じく指揮者にならなかった草壁。吹奏楽部で音楽に親しんでいるチカ達に、真琴は「音楽で食べてゆくこと」の厳しさを語るが、まさにその通りだと思う。好きの延長だったり周囲より技術があるからと音大に進んでも、卒業する時には自分が進む道が閉ざされる厳しさ。果たして草壁に何があって高校の吹奏楽部顧問になったのか非常に気になるが、ピアノの鍵の謎もなかなか面白かった。
 「失踪ヘビーロッカー」は今作品の中で一番笑えるお話。タイトルもとても巧いなと思う。甲田君の機転の利かせ方も良かったが、タクシーの運転手さんが面白い。彼は意外なところで再登場して驚いた。キャラクターの使い方が本当に巧いなと思う。
 「決闘戯曲」は演劇のお話。西部開拓時代、第一次世界大戦時代、そして現代。決闘を生き残った一族の物語だが、彼等は皆右目が見えず、左手が使えないという共通点があった。絶望的に不利な状況なのに生き残れたのは何故なのか。真相を知ると「ああ、そうか!」と思うが、全く思いつかなかった。
 表題作である「千年ジュリエット」は実に切ないお話だ。「ジュリエットの秘書」という恋愛相談のサイトを立ち上げた女性達。年齢も職業も様々な彼女達がいる場所は病院だ。残された時間の少なさを知る彼女達は、サイトに寄せられた相談事に答えることを楽しみにしていた。そして「私」はかつて病院に慰問に来てくれたサックス奏者の少年に会う為に、高校の文化祭を訪れる。
 この本に収められている作品はどれも「誰かに残すもの」だ。祖父から孫へ、先輩から後輩へ、父から子へ、そして死に逝く者から生きる者へ。千年経ってもなくならないものは、寿命のある人間が目にすることはできない。しかし、何かを受け継いで歩き出す者は必ずいるのだ。顔を上げて歩き出す人の姿を見ることができて、悲しかったけれど読後感はとても良かった。

千年ジュリエット (角川文庫)

千年ジュリエット (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 文庫



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2014-10-26 [初野 晴]

 初野晴さんの「空想オルガン」を読了。
 ー廃部寸前の吹奏楽部を立て直し、吹奏楽の甲子園と呼ばれる普門館出場を目指すチカとハルタ。いよいよコンクールに出場する。だが、そんな大事な時期にハルタの様子がおかしい。なんとハルタが暮らすアパートが取り壊され、彼は住居を失っていたのだ。顧問の草壁先生に対する恋のライバルでもあるチカは、数日なら泊めてもいいという草壁の言葉に猛反発して新居を探し始めるが……。ー
 ハルチカシリーズ3作目。吹奏楽部のメンバーもなんとか揃い、元々実力者が多かった所為か(チカを除く)、するすると地区大会を突破する。私自身、中学生時代に吹奏楽部だったので、コンクールがある夏休みのキツさはよく覚えている。本番前に体育館で練習する時には楽器の他に椅子も運び、譜面台も運び、運動部並みのキツさだった。コンクール当日も楽器搬入での時間との闘いや緊張感などを思い出して懐かしく思えた。残念だったのは肝心の演奏部分の描写がまったくなかったことか。
 今作はハルタの新居探しである「ヴァナキュラー・モダニズム」がミステリとして一番面白かった。アパートの名前の由来から幽霊話、相続税ときて究極の建物。まさにあっと驚く展開だった。ハルタはそこに住んだのだろうか。楽器の練習ができる防音完備というのは羨ましい。
 「十の秘密」は痛々しいながらも甘酸っぱい青春小説。「ギャルバン」と呼ばれる清新女子高吹奏楽部が登場。全員がギャル風メイクで近寄り難い。だが、彼女達の結束はとても強い。果たしてあそこまで1人の為に尽くすことができるのか。きっと卒業しても彼女達の友情は一生続くのだろう。しかし、遠野さんの才能は凄い。
 表題作の「空想オルガン」では、チカ達に絡んでいた渡邉が登場。彼の生業に驚いた。芹澤さんもようやく「年老いた馬」の呪いから解放されたようでもある。オルガンという言葉のもう1つの意味を初めて知った。このシリーズは学生達だけで物語が収束するのではなく、外の世界の大人達が絡んでくるため、世界が広がって面白いなと思う。

空想オルガン (角川文庫)

空想オルガン (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 文庫



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2014-10-04 [初野 晴]

 初野 晴さんの「初恋ソムリエ」を読了。
 ー廃部寸前の吹奏楽部を立て直し、吹奏楽の甲子園「普門館」を目指すチカとハルタ。吹奏楽経験者達に降り掛る謎を解き明かして部員を増やしていくが、音楽エリートとして育った芹澤直子にはにべもなく断られ続けていた。ある日、芹澤の伯母が高校にやって来る。「初恋研究会」という名のクラブに招待されたのだという。彼女の初恋に秘められた秘密とは……。ー
 「ハルチカシリーズ」2作目。順調にメンバーを増やしつつある吹奏楽部だが、彼等の前に強敵が立ちはだかる。芹澤直子。国会議員を輩出した地元の名家の令嬢にして、幼少から専門の音楽教育を受け筋金入りのアンチ吹奏楽の少女。クラリネット奏者である彼女を吹奏楽部に勧誘する為に、チカ達は奮闘する。芹澤自身の秘密を明かす「スプリングラフィ」。音楽を目指す彼女にとっては致命的な秘密。家とのしがらみ。高校生が背負うにはなかなかに重い。そして、表題作である「初恋ソムリエ」。人の初恋が本当に「恋」だったのかを鑑定するというおかしなクラブ。だが、直子の伯母が依頼した初恋があまりにも壮絶だった。当時のことは記録でしか知らないが、多感な頃をその渦中で過ごした彼女と彼女を護ろうとしたベンジャントの心情を思うと辛い。
 他の収録作「周波数は77.4MHz」「アスモデウスの視線」もテーマはとても重くて、高校生が解決するのは如何なものかと思うが、大人によって守られている世界である意味好き勝手をしている高校時代に、世界が決してやさしいものではないということを知るのも大切なのだろう。

初恋ソムリエ (角川文庫)

初恋ソムリエ (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2011/07/25
  • メディア: Kindle版



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2014-09-28 [初野 晴]

 初野 晴さんの「退出ゲーム」読了。
 ー廃部寸前の弱小吹奏楽部に所属する穂村チカと上条ハルタ。2人は吹奏楽部の甲子園と呼ばれる「普門館」出場を目指すがメンバーが足りずに悩む。そのうえチカには顧問の草壁先生を巡る片思いの三角関係の悩みまであった。そんな2人に学校の中で起こる数々の謎が降り掛るー
 チカは中学生時代はバレーボール部所属だったので、フルートを始めたのは高校生になってから。一方のハルタはホルン奏者としてかなりの腕前。そんな2人が同じ相手に片思いしている。ハルタは同性である草壁先生に対する片思いなのでかなり不利だが、2人はきちんと「抜け駆けしない」という紳士協定を結んでいる。
 チカとハルタが事件を解決する度に吹奏楽部の部員が増えるという、RPGのような展開だ。だが、彼等が解決する事件は決して軽いものではない。殺人が起こるわけではないが、事件が背負うものは「日常の謎」に振り分けてしまうには重すぎる。だが、作品が重く沈まないのはハルタとチカのキャラクターだろう。ハルタは容姿端麗頭脳明晰だがなんともいえない残念さがあるし、チカの明るくポジティブな姿は読んでいて清々しい。また、発明部や生徒会にマークされる「ブラックリスト十傑」など、学校内に個性豊かな人物が大勢いるため、読むのがとても楽しかった。謎めいた草壁先生など、続きが気になる作品だ。

退出ゲーム (角川文庫)

退出ゲーム (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2010/07/24
  • メディア: 文庫



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2014-08-31 [初野 晴]

 初野 晴さんの「水の時計」を読了。
 ー医学的に脳死と診断された少女・葉月。彼女は月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を発することができた。生きることも死ぬこともできない残酷な「時計」の中に閉じ込められた葉月は、自らの臓器を他人に分け与えることによって、「時計」を止める事を望む。その臓器を運ぶ役目を負わされたのは、暴走族に所属していた少年・昴だった。ー
 物語のモチーフはオスカー・ワイルドの「幸福の王子」。宝石を分け与える王子の像が葉月で、ツバメが昴。
 臓器移植を「幸福の王子」になぞらえたのが巧かった。何故葉月が月夜にだけ言葉を発することができるのかは謎だが、彼女は自分の臓器を与える相手を自分と昴によって選びたいと望む。昴には心を病んだ兄がいて、暴走族仲間との軋轢もある。だが、昴は謝礼金目的に臓器の運び屋を引き受け、そして様々な人と出会う。
 母親による代理ミュンヒハウゼン症候群によって目を奪われた幼女、腎移植を求めてブローカーに大金を支払い詐欺にあった女性、「心」の在処を心臓に求めて、敢えて「移植を受けない自由」を選んだ人など、「生きる」ということに直面した人達の話が重い。この物語の主役は紛れもなく彼等なのだろう。
 最終章でようやく葉月自身のことが語られる。それまで断片的にイメージのように現れていた少女が経験したことはあまりにも惨い。「幸福の王子」はサファイアの目を失い、ツバメの死を見る事はなかったが、昴は葉月の時計が止まるまできちんと見届けた。そして彼はその先を歩くことを決めたようである。
 なんとも不思議な雰囲気の小説だったが、もう少し葉月と昴、昴と兄の関係を掘り下げて欲しかったなとも思う。

水の時計 (角川文庫)

水の時計 (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/08/25
  • メディア: 文庫



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